東京高等裁判所 昭和28年(ラ)391号 決定
抗告人は前掲貸金請求事件につき昭和二十八年九月九日の原審第一回口頭弁論期日において、抗告人の本店所在地及び本件手形貸付上の義務履行地を管轄する裁判所はそれぞれ神戸地方裁判所及び松江地方裁判所であつて、本件は東京地方裁判所の管轄に属しないとの理由を以て、本件訴訟を管轄裁判所に移送する裁判を求めたところ、原審裁判所はこれを移送の申立と解し、右申立を却下する旨の原決定を為し、更に本案につき審理を遂げた上同年十一月十八日原告勝訴の裁判を言渡し、抗告人よりこれに対し当庁に控訴申立を為し、該控訴事件は現に当庁第一民事部に係属中であることは記録上明かである。
よつて按ずるに訴訟につき裁判所が管轄権を有するや否やはもとよりその職権調査事項に属し、若し訴訟の全部又は一部がその管轄に属せずと認めるときは裁判所は職権を以てこれを管轄裁判所に移送する決定を為すべく、当事者は防御方法として管轄違の抗弁を提出し、或は裁判所の移送決定に関する職権の発動を促すことはできるけれども、本来移送の申立権を有するものではない(民事訴訟法第三十条第一項)。仮令当事者が移送の裁判を求める旨の陳述をしたとしても、裁判所はこれを管轄違の抗弁の提出又は職権発動を促す趣旨の申述と解して取扱えば足りるのであつて裁判所が当該訴訟につき管轄権を有すると認めた以上、特に移送の申立却下の裁判をする必要はないのである。民事訴訟法第三十三条には移送の申立を却下した裁判に対しては即時抗告を為すことができる旨規定しているけれども、これは当事者に移送申立に関する訴訟上の権利を認めた場合だけを指すのであつて、かかる申立権の認められてない本件のような場合を含むものではなく、当事者は裁判所が誤つてなした申立却下の決定に対しては抗告を為し得ざるものと解すべきである。それ故本件抗告が許すべからざることは明白である。しかも本件については原審裁判所は既に本案の判決を言渡し,該事件は現に控訴審に係属中であるのみならず、控訴審において当事者は専属管轄の場合を除き第一審裁判所が管轄権を有せざることを主張し得ないことは同法第三百八十一条の明定するところであるから、これ等の点から見ても本件抗告には何等の利益がないものといわざるを得ない。